皇太子殿下が即位される5月1日当日、
元号は「平成」から「令和」に改まる。次の元号、令和の出典はわが国の古典(国書)。これまでの247の元号のうち、出典が明らかな(又は推測可能な)例は200余り。それらが全て、漢籍が出典だったのに比べると、異色だ。万葉集、巻五「梅花の歌三十二首」に添えられた「序」から。同序の作者は、(異説もあるものの)大伴旅人(おおとものたびと)と見る説が有力。出典になった部分の現代語訳を紹介する。「初春のよき月であり(原文は→初春令月)、気は清澄、風はやわらかに(同じく→気淑風和)、梅は佳人(かじん=美しい女性)が鏡前の粧(よそお)いのように開き、蘭はにおい袋の香のようににおうている」(澤潟久孝〔おもだかひさたか〕訳)「令月」は、漢籍の文選(もんぜん)に収める張平子の帰田賦に「仲春令月、時和気清」と出てくる。
「気淑風和」も同じ帰田賦や王ギ之の蘭亭集序にも似た句がある事が、既に指摘されている。修辞上のオリジナルを探ると、やはり漢籍に行き着く。旅人の手になると思われる同序は、実はなかなか色っぽいレトリックを駆使していた。伊藤博氏の現代語訳だとより鮮明だろう。「梅は佳人の鏡前の白粉(おしろい)のように咲いている」と。安倍首相や菅官房長官、或いは閣僚の面々は気付いていただろうか。元号の出典が漢籍“だけ”でなく、国書にまで範囲を広げたこと自体は、今後も元号が末永く続いて行くべき事を考えると、さほど目くじらを立てるには及ばないだろう。写真:代表撮影/ロイター/アフロ)